【不思議なほど自分とリンクし、身体に浸透してくる描写の数々】

「おやおや、あんたは自分のことを知らないようだね・・・」

 

まだ合って間もない赤の他人からそう言われたら、
気になって仕方ない。少なくとも僕は。

 

“見ず知らずのあんたが、僕の何を知ってるんだ?”

 

と思いながらも、

 

“初対面でそんなこと言うなんて、それってどういう意味?”

 

とも思う。

 

自分のことは自分が「一番分かっている」ようで、
実は自分が「一番分かっていない」とも感じるから。

 

これは数ある場面の中の、わずか数行の話。

 

たまたまかもしれないが、この本の中で、
今の自分とリアルにリンクしているような場面が多々ある。

 

文字から創りだす自分だけの世界に入り込みながら、
あえて自分とは違う人、
真逆のように見える人の視点を勝手に拝借してきて、
想像の世界で妄想を膨らます。

 

これはこれで、他人には決してバレない最高の一人遊び。

 

物語の冒頭は、いきなりだだっ広い草原に放り出されたような、
自分の素性も現在地も何もわからない状態。

 

不安と期待、これから何が起こるのか、どこに進むのか、
ついつい気になって手が止まらなくなる。

 

せっかく用意していた、
僕の3大飲み物の一角を占めるホットコーヒー。

のはずが、一ミリも動かず一口もつけられないまま、
すっかり冷えて寂しがっていた。

 

挟まれることを待っていたはずの、
ツヤと色気のある茶色いしおり。

残念ながら表舞台に立つことなく幕を閉じた。

 

買う前は興味をそそられていただろう帯も、

穴が開くほどのめり込む僕にとっては、

もはやただの細長い紙切れ。

すぐに本と引き離して一人ぼっちにしてしまい、申し訳ない。

 

不可思議なSF要素と、
自分がそうなったら嫌だろうなと思う現実がミックスされた、
遠からず近からずの絶妙な距離感。

 

手の中から脳裏へと無限に広がる世界。

 

想像の世界で誰もが考えたことのあるような、
旅には欠かせない一場面が描かれたかと思うと、
それと交差するかのように、
人間が生きるリアルな現実も垣間見える世界。

 

「欲望というより、こうなってくるともう想像力だな。
なまなましい想像力だ。」

 

「何か強いものを力にしなきゃいけねえ。
そんな時には原始的で、
あまり上品ではない欲望が力になってくれるんだよ。
おれみたいに、教育のないものにとってはな。」

 

「おやおや、あんたは自分のことを知らないようだね・・・」

 

ページをめくり数分も経たないうちに、
自分が生きる4次元の世界と、
本という2次元の中で繰り広げられる世界がリンクしていく。

 

この先はどうなる?
正体はホントにその人だったの?
最後はどんな死を迎えた?
感嘆した?絶望した?

 

クライマックスの行方を、こちら側に託される。
どう思うかは自分の自由なのに、結末が欲しくなる感覚。
想像力が豊かなほど、自分の中の世界が成熟される。

 

逆に想像力がないと、
自分で自由に考えるということさえままならない。

 

でも、現実でもそうなってしまってることばかりじゃないかと、
ふといつもの自分を振り返って冷汗をかいたり・・・。

 

自分のストーリーを創るのは自分。
どんなシナリオを描くのかも自分次第。
すべては自分の中から生まれる世界。

 

直感で手に取った、

 

『旅のラゴス(筒井康隆 著)』

 

を片手に、
自分の人生観、価値観、現在地、未来、
怖れ、可能性などをふと振り返り、
自分の感情や思考に意識を向けてみる。

 

さて、僕の旅は、どこに向かうのかな・・・